キズナと蛍の物語 Story
Story 目次
  • ◆#05――救出
  • ◆#06――護衛
  • ◆#07――回収
  • ◆#08――制圧
  • ◆#09――死闘
  • ◆エピローグ
キズナと螢の物語 ストーリー プロローグ
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次の話

――これは、螢たちの物語が始まる、少し前の物語。

「シュートが決まった時、俺は『やっぱサッカー大好きだなー』って思うんだよなー!」
赤みがかった金髪の少年が、白い歯をニッと見せて屈託の無い笑顔で言う。彼の笑顔には曇りがなく、本当に素直な気持ちを伝えていた。

「……ああ」
 それを聴きながら、もう一人の少年はベッドに寄りかかって座ったまま、窓から見える午後の穏やかな景色を見ていた。
 彼は灰色のパーカーと紺色のデニムパンツというシンプルな服装で、特徴がないことが特徴に見える。
 わずかな風が街路樹を揺らし、暖かな日差しがそれに彩りを添えている。
 彼の中途半端に伸びた黒い前髪は瞳を覆い隠し、その表情が持つ意味を隠していた。

「……おい正義(まさよし)、聞いてるのか?」
 曖昧な回答に少しムッとして、金髪の少年は続けた。
 彼は黄色のTシャツの上に赤色のパーカを羽織り、膝下丈の青いハーフパンツに身を包んでいる。
 肩掛けバッグにネットに入れたサッカーボールを下げている辺りからも、サッカーが好きな少年であることがすぐに分かる。

「……まあ、それなりに」
 黒髪の少年――正義は、悪態混じりの言葉を返す。
 親しい仲間だからこそ、返せる答えを返した。

「正義は、ほんと根暗だよな!」
「ジャンが明るすぎるだけだって」
 金髪の少年・ジャンも悪態を返すのに、正義もおどけて返してみせる。

 正義の部屋は、物が少ない。小さな勉強机と、本棚がひとつ、ベッドがひとつ。
 特にこだわりがないのかはたまたこれが拘りなのか、
 色彩の鮮やかなものは少なくモノトーンの家具が多く配置されていた。
 西にはベランダへ続く大きな窓があり、温かい日差しが差し込んでいた。

 だが、どうにも正義は暗いままで重い空気が続いている。
 ジャンはそれを本能的に察知しとりいつもよりも言葉数が多くなりがちだった。

「……」
 正義は足を組み直しながらため息をついて、
 勉強机の椅子にあぐらをかきながらこちらを見ているジャンに視線を向ける。
 それから窓の外に視線を向けて、状況を整理し始めた。

 いま目の前にいる金髪の少年は、ジャンカルロ・シジスモンド……通称ジャン。
 彼はイタリア人で、サッカー選手の父親が新日だったため日本に移住してきた。
 会話の流れからも分かるように明るく表裏の無い性格で、学校でも人気者。
 友達の多さランキングは校内第一位かもしれない。
 年齢は正義と同じ15歳で、小学校の時からの親しい仲間だった。

「そういえばさ、今日出撃の予定があるから、昨日参拝に行ったんだけど」
「また百束神社に?」
 ジャンからの突然の話題変更も気にせず、正義は静かに返す。それから、
「町外れにあるあの神社で、父親が気に入ってよく一緒に行くんだっけ?」
 と、話をまとめつつ聞き返した。
「そうそう、そうなんだよ。で、いつもの『あの子』をまた見たんだよ!」
「……はぁ」
 正義はまた大きくため息をついてから、口を開いた。
 この話を聞くのは何回目なんだろうと思えるほどには、しょっちゅう話を聞いているからだ。
「そうだな。父親に連れて行かれるたびに見かける『あの子』とやらに、ジャンは一目惚れしてるんだよな」
 既知感溢れる回答に正直慣れているので、正義はジャンが言いたいだろうことをまとめて続ける。
「そうそう! そうなんだよ! いつも通り凛とした表情で、こちらを気にもしないで。そこが逆にいいんだよ!」

(それは向こうがジャンを知らないからだろ……)

 と正義は内心思うが、言っても仕方ない。
 それよりも、そのことにジャンが素直に喜んでいるのが伝わってくる。
 正義はそれが気持ちを軽くすることを知っているから、軽く息を吸ってから、続けた。

「……ジャンと話してると、悩むことが無意味に思える」
 あまりに素直なジャンに、正義は素直な気持ちを吐露してしまう。
 前向きで明るいジャンと話していると、悩んでいる自分が馬鹿みたいに思えてくるのだ。

 とはいえ、同時に救われていることも理解はしている。結局、自分は――。

「はっはーん、正義。それはさ、アレなんだよ」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべて、ジャンは勿体ぶって続ける。
「うちの親父が言ってた。『自分の理想より行動量が低い奴は、みんなそう言うから気にするな』って」
「ははっ」
 正義は自嘲の笑いを吹き出してから、
「確かに俺は、ここ最近行動してねーわ」
 と、自分を責めるような言葉を綴る。

 ――確かにジャンの言う通りだ。ここ最近の自分は、家にこもるだけで何の行動もしていない。
 その事実は、正義をより一層落ち込ませるには充分な理由だった。

「……悪い。そんな俺の家に、毎日のように寄ってくれて」

 と、正義は弱気な言葉を吐く。
 素直な感謝と申し訳なさとが入り混じり、複雑な感情をそのまま形にした言葉だった。

「何言ってんだよ」
 それにジャンは意外な顔をしてから、あっけらかんと言葉を返してきた。

「仲間が不登校になってんのに、心配しねー奴なんていねーだろ?」

 2年前。
 僕は雨の中、立ち尽くしていた。
 自宅の塀には黒と白の鯨幕がかけられ、葬儀が行われていることを示している。

 母が、死んだ。

 13歳の正義が、その事実を受け入れることはできなかった。
 剣豪の元に産まれたばかりに、修行を強いられてきた自分を唯一救ってくれた存在。

 その母が、死んだ。

「正義! まだ寝てんの!?」
 ノックもせずにドアを押し開ける少女を、正義はベッドに寝転がりながら冷たい目線で見つめた。
「……友凛愛(ゆりあ)、幼馴染みとはいえ人の部屋に入る時は……」
「えっ、起きてる!」
 正義の言葉を遮って、彼女は大げさに驚きながら目を丸くする。
 友凛愛は白ニットのトップスにベージュのショートパンツを合わせ、紺色に赤いラインの入ったシャツを腰で結んでいる。
 眉の上で揃えた前髪に、後頭部で縛った髪はゆるいウェーブを描きながら胸ほどまでまで伸びての高さになっていて、彼女の明るく活発な性格を象徴していた。

「……お前は本当に遠慮がないな」
 学校からの帰宅時間に立ち寄っているのだから、時間はすでに夕方16時。なのに起きてることに驚かれているのは大変失礼なのではないか、と正義は素直に思っていた。
 素直な皮肉のこもったその言葉に、
「ありがと! 元気でまっすぐなのが取り柄だもん」
 と、友凛愛は焦点のずれた答えを返す。
 正義も幼い頃から慣れているので気にせず、聞こえない程度に小さいため息をついた。

「で、学校行く気になった?」
 友凛愛はベッド脇にあるクッションに膝から突っ込んで座り込み、後頭部で結った髪を大きく揺らしながら、ぐっ、と身を乗り出して言った。
「ええと、落ち着け。お前、毎日同じこと言ってるぞ」
「毎日通ってるんだもん。当たり前じゃん」
「……」
 正義は言葉を失って、右手で頭を抱えつつゆっくりと浅く息を吐いた。

 ……そうだ。付き合いの長い幼馴染みとはいえ、友凛愛は毎日学校帰りに自宅に寄ってから帰る。何をするまでもなく、1時間ほど話したいことを話してゆくのだ。
 それを毎日続けていることに、申し訳ない気持ちだけが正義を捉えていた。

「そういえばさ」
 友凛愛が不意に、思い出したように口を開く。
「ずっと言ってるじゃん。私、パティシエールになりたいって話」
「ああ、よーく知ってる」
「で、習いに行ってることも話したでしょ。昨日、先生からずっと『アシェ・アッシュ』って言われて、意味が分からなかったんだよねー」
 友凛愛は考え込むような表情で話を続ける。
「それで先生に意味聞いたの。そしたら、フランス語で『刻む』って意味なんだって。最初から刻んで、って言えばよくない?」

 それに正義は思わず吹き出した。そのリアクションに友凛愛は理解不能という驚きを表情にして、戸惑い始める。
「お前……」
 そこまで言って正義は言葉を途切れさせた。
 色々とあるが、そんな他愛もないことを面白おかしく話せる友凛愛に感服したというか、そういう着眼点に感動したというか、とにかく正義は言葉に詰まってしまったのだった。

「そーなの?納得いかないなー」
 頬を膨らませながら友凛愛は言うが、正義はこみ上げる笑いを堪えられない笑顔で、声を出して笑った。
「お、今日も正義はちゃんと笑えるね」
「……!」
 それに友凛愛は言う。正義は思わずこわばって動きを止めた。

 ――この幼馴染みサマは、こちらの想定外の言葉を返してくる。
 毎日人の家に立ち寄って、笑わせて、それを確認してから帰る。
 申し訳ない気持ちと感謝の気持ち。とにかく正義は、なんとも言えない微妙な表情を作った。

「……あのね、正義。パティシエールって大変なの。色んな食材が綺麗なハーモニーを奏でるようにしてあげなくちゃいけないの」
 それに正義は言葉を紡げず、何も言えないでいた。それを気にせず友凛愛は続ける。
「それは、お菓子だけじゃなく人間もそうだと思うんだ。だから、私は正義を信じてるよ」
「友凛愛……」

 信じている、その言葉に正義は言葉に詰まる。
 何もしていない自分、何もできない自分。
 そんな自分を無条件に信じてくれる存在が、どれほど心の安息をもたらせてくれるか。
 ただその感覚を反芻していた。

「じゃ、私そろそろ行かなきゃ。出撃があるかもしれないんだ」
 出撃、という物々しい単語が急に飛び出す。

 今から約13年前、謎の存在が確認された。
 彼らは低い知能と破壊衝動のみで街を壊し、人を襲う。あまりにも知能の低い存在だった。
 だが、同時に彼らは軍隊の持つ物理兵器が有効とは言えなかった。
 ダメージは与えられるようだが効いているのかいないのかも曖昧で、物理兵器によって倒された個体もいないため、実際の所はどうなのかさえよく分かっていない。

 そんな存在なので、彼らはいつしか「かつて神だった者」もしくは「神の座を奪われた者」と位置づけられ、
人々は畏怖の念を込めて彼らをこう名付けた。

――旧穢神(オールド・リベリオン)。

「ルキオラ・クルキアタか?」
「うん、そう。旧穢神が出現する可能性があるらしいんだ」

 旧穢神が現れてから、伊集院財閥が「ルキオラ・クルキアタ」という研究・支援組織を設立した。
何故政府が動かなかったのは謎のままだが、世間の噂レベルでは財閥の幼い跡取りの将来を不安に思った総帥が積極的に動いたからだと、SNSなどを通じて噂されている。

「だから、私帰るね」
 言うが早いか、友凛愛はすたんと飛び上がるように立ち上がると、来た時と同じ勢いで部屋を出ていってしまった。

「……」
 正義は中途半端に乗り出した上半身を戻しながら、ゆっくりと息を吐いた。

 ……友凛愛はいつも、マイペースだ。
 こちらのペースを狂わせるだけ狂わせておいて、考え込む題材だけを置いて帰る。

「……そんな所に、救われてるんだろうな……」
 正義はそうひとりごちてから、ベッドに横になった。

――あれはいつだっただろう――。

「起きろ、正義」
 自宅の道場のには、大きな庭がある。とはいえ庭というより、屋外の訓練場と形容した方が正しい。素振りや模擬戦など、道場では狭い練習に使われている広いスペースだったからだ。
「――え」
 幼い正義は、意識を取り戻しながら曖昧に答えた。
 ……確か、父親と向き合って木刀での模擬戦を行っていたはず。
 何故、自分が地面に突っ伏していて、父親に起こされたのか、そこまで理解するのに時間がかかった。

「お前の剣はまだ甘い。がら空きだ」
そこで正義は、父親からの上段を受け、意識を失ったのだと思い出す。

 ――無理だ。

 正義は素直に思った。
 8歳の少年の手足は、大人のそれよりは圧倒的に短い。その上、技量に関しては言うまでもない。

 何故、自分が意識を失い地面に突っ伏すまでの稽古をしているのか。
 素直に疑問に思った。

「あなた、その辺にしておいてあげたら」
 縁側から優しい声が届く。
「――お母さん!」
 正義はその声に反応し、縁側に走り出す。父親はその光景を見ながら小さなため息をつき、
「正義は天真正伝香取神道流の流れをくむ、当家流派の跡取りだ。厳しいのは当然のことだ」
 と、抑揚の無い声で綴った。
「まあまあ」
 母親は優しく、そしてまっすぐに言う。足元にしがみつく正義に手を差し伸べ、その体を優しく抱きかけながら続けた。
「私は正義に強い子になって欲しいわ。この間の健康診断でもグロウリー適正があるって分かったしね。でも、あなたもよく言ってるじゃない。修行には休憩も必要、でしょ?」
 肩口までの髪を揺らしながら、彼女は微笑む。
「……うむ、そうか。そうだな」
 父親はどこか罰が悪そうに、自分を納得させるような呟きを小声で言う。それから踵を返して、道場に向かってゆっくりと歩き始めながら、
「夕食が終わってから、稽古の続きを行おう」
 と、静かに言った。

 ――僕には、無理だ。
 でも、その言葉は。
 言ってしまうと全てが壊れるんだと、当時の僕はそう思っていた――。

「もー。アンタまだ不登校なの?」
「……はい」
 正義は床に正座しながら、申し訳なさそうに言った。

 目の前には、一人の少女がいた。長い髪をツインテールに結って、くりくりと大きな瞳でこちらを見ている。
 チェック柄の上下繋がったワンピースに身を包んでいて、ワンピースの下にはフリルの多い白のシャツ。
 それに赤いネクタイと、膝上15センチのソックスを履いている。一言で形容するなら、「アイドルの衣装っぽい」という言葉が一番適切に思えた。
「正義は、ニートなんかやってる暇ないと思うよ。そう思うでしょ?」
「あ、はい」
 正義が気迫に負けて素直に返す。目の前にいる彼女は、2歳年上の先輩ということもあり反論しにくかったのである。

 しかも彼女――佛淵 明日華(ほとけぶち あすか)は有名な存在だ。アイドルを目指して活動中で、ネットでの動画配信を主な活動の場としている。
 大ヒットにはまだ至ってないが、地下アイドル界隈では有望株として認められておりメジャーデビューも時間の問題、という評価をされていたからだ。

(……で、この人までなんでちょいちょいうちに来るんだよ)

 正義は内心ひとりごちた。
 明日華とは2年前……つまり正義が中学一年生、明日華が中学三年生の時に知り合った。社交性にパラメータを極振りしたようなジャンから紹介され、そのまま正義・友凛愛・ジャンの仲良しグループにちょいちょい絡んでくるようになっていた。
 とはいえ、それほど親しいとは言えない関係性だと正義は思っているのに、ちょくちょく自宅まで訪ねてくる明日華に戸惑いを隠せないというのが正義の本音だった。

「家に篭っていても、世界は変わらないよ。もっと世界を輝かせようよ!」
 正義は正直、明日華の言ってることは住んでいる世界が違うためかあまり理解できていない。
 でも、同時に彼女なりの前向きさを表現していて、それが伝わるのも事実だ。
 だから正義は、
「明日華の言ってることは分かるけど、俺は大丈夫だよ」
 と、安心してもらうための根拠のない言葉を羅列した。

「もう、可愛い後輩が不登校になってるっていうから、励ましに来てあげるのに」
 明日華はそれに苦笑いをして、白い歯を見せながら言う。それから、
「そもそも、正義はなんで不登校とかやってるの?学校行こうよ?」
 と、追い打ちをかけるのだった。

 ……母親の死が原因。
 とは、さすがに明日華には言えない。
 正義は言葉に詰まり、何も言えなくなっていた。

「あ! でもさ」
 その沈黙に明日華は耐えられないのか、それとも何かを察したのか、口を開く。
「誰でも色々あると思うんだよ。でも、ね……前を向くことだけは諦めちゃいけない。それがすべて」
「……」

 正義は、また言葉に詰まってしまった。
 彼女なりに励ましてくれようとしていることだけはしっかりと伝わってくる。
 そして、彼女自身がトップアイドルを目指して努力を続けているという事実がなお説得力を帯び、強い言葉として正義の胸に刺さった。

「……そうだね」
 正義は、そう曖昧に返すことだけで精一杯だった。
 明日華は前向きなぶん、彼女の言葉は今の正義には深く刺さる。

「でしょ! だから、早く学校行きなよ。で、またみんなで遊ぼうよ」
 明日華は言って、ゆっくりと立ち上がった。
「私、出撃があるかもだからもう行くね」
 満面のアイドルスマイルを見せながら、彼女は部屋から出て行った。

(アイドル活動をしながらグロウリーとしての活動……大変そうだけど、そんな素振り見せないんだよな……)
 正義はまた、ベッドに体を委ねながら考え込み、やがて静かな眠りに誘われていった――。

 ――あれはいつだっただろう――。

「正義は、それでいいのよ。私たちの大切な子供だもの」

 ――母親のぬくもりを感じていたあの時、確か――。

「あなたにできることで、誰かを幸せにしてあげてね」

 ――できること――?

「そういえば……」
 正義はふと、小学校の定期健診を思い出す。旧穢神が現れてから、通常の検診に加えて新たな項目が追加されていた。

――グロウリー適正。

 「グロウリー」というのは、そのルキオラ・クルキアタに所属するメンバーのことで、旧穢神を滅ぼせる超能力を持つ若者のことを指していた。グロウリー適正のある者は、その生命の灯火と精神力で超能力を引き出し、旧穢神を滅ぼすことができるのだ。
その原理はまだ不明な点が多いのだが、吸入麻酔薬と呼ばれる薬剤の作用機序が正確に解明されていないが実用化されているように、とにかく旧穢神を討伐できる手段であるのは確かで、グロウリーが増えることによって一方的な虐殺が防がれていたのもまた事実だった。

 正義は首をひねりながら当時を思い出そうとする。当時はあまり興味がなかったが、最高の適正レベルと評価されていたはずだ。
 母はそれを非常に喜んでくれたのを覚えている。だが父親は跡継ぎとしての修行のことしか考えておらず、良い顔をしなかった。
 そのため話はそこで終わり、友凛愛とジャンがルキオら・クルキアタのメンバーとなったという話を、ただなんとなく聞いていた。

「……できること、かあ……」

 正義はベッドに大の字に寝転びながら両腕を頭の下に敷いて、天井を見つめていた。

 不登校になって2年が経つ。
 そこで得られたものは何だろうか。
 そろそろ、何か始めても良いのだろうか。
 ――とはいえ、何を始めたらいいのだろう。

 正義はスマートフォンを取り出し、チャットツールを立ち上げる。
 それから、ジャンと友凛愛の参加しているグループチャットのウインドウを開いた。

『なあ、グロウリーのことを詳しく教えて欲しいんだけど』
 それだけ送信してから、正義はゆっくりと瞳を閉じた。

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