キズナと蛍の物語 Story
Story 目次
  • ◆#05――救出
  • ◆#06――護衛
  • ◆#07――回収
  • ◆#08――制圧
  • ◆#09――死闘
  • ◆エピローグ
キズナと螢の物語 ストーリー プロローグ
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2017年12月2日土曜日、午前9:00。天気予報は、曇り。最高気温11度、湿度54%。
日本海側に面しており、冬の冷え込みが厳しいT市にしては温かい1日になる”はず”だった。
いつもの日常がまた始まるだけの、何ら変わりのない朝だと誰しも思っていた。

早朝、出撃要請が届くまでは。
誰も、この1日が特別な1日になるとは、夢にも思ってもいなかった。

――後に「穢門事変(ヴォイドゲート・ディザスター)」と呼ばれることになる、グロウリーたちにとって忘れられない事変となる1日がいま、始まろうとしていた――。

「ダメだ、こっちも燃えまくってるぜ!!」
 ジャンは正義と友凛愛に駆け寄りながら、目を大きく見開き驚きに焦りを加えた表情で、言った。

「火事、すっごく広い……!?」
 友凛愛もスマートフォン型携帯端末の画面を見つめながら指で叩きつつ、目を丸くしながら声をあげる。
「……思ったよりも火の回りが早い。後方部隊による一般人の救出も、あまり順調とは言えないみたいだ」
 正義はため息をつきつつ、かぶりを大きく振りながら答えた。

 ここは、T市内の海岸に近い、バーベキュー場。
 朝から襲撃の報告が入ってすぐに出撃したはいいが、現場はすでに激しい火災に覆われてしまっていた。

「まったくもう。せっかくのバーベキュー場なんだから、美味しいお肉が食べたい」
「友凛愛、よだれ出てる」
 本能のままに呟く友凛愛に、正義がハンドタオルを差し出す。
 それに友凛愛は差し出されるハンドタオルをひったくって、少し頬を赤らめながら頬を膨らませて見せた。

「……にしても、消防隊も苦戦しているらしい。早く旧穢神を討伐しないと、俺たちも危なそうだな」
 正義が希望的観測の無い現実をあえて言葉にすると、ジャンと友凛愛は何も答えずに、ただ神妙な表情を見せていた。

 このバーベキュー場は、海岸線に近い所にある。施設は海岸線と平行に近くを走る国道をまたぐように広がっており、海岸近くに調理場や飲食スペースがあった。
 そこを囲むように松林が放射状に数キロ広がっており、その先から内陸に向かって一般市街が広がっているのだった。
 水場が近いとはいえ広い範囲に松林がある以上、火災は嫌でも自然に広がってゆく。楽観視できる理由はなかった。

「でもさ、俺は割と調子いいぜ!」
 ジャンがいきなり両の拳を振り上げながら、場違いに明るい声で言う。その理由が分かる正義と友凛愛は、お互いに顔を見合わせながら、苦虫を潰したような表情を見せた。

 グロウリーたちは、力の源とする精神力の傾向によって能力の系統・得手不得手を表す指標となる4種類の「属性」というもので分類されている。
 ジャンのように熱意・激情を源とする者は「炎属性」と呼ばれる。ちなみに、明日華も炎属性だ。
 それとは真逆に、冷静・衝動を源とする者は「水属性」、維持・保守を源とする者は「木属性」となる。
 最後の1つ、上記に当てはまらないバランスの良い能力を持つ者。彼らは「無属性」と呼ばれており、正義と友凛愛は無属性に分類されていた。

「そうだな。これだけ炎が多いと、ジャンは動きやすそうだな」
 正義が言うのに、ジャンは目の前にピースサインを出して、屈託のない笑みを見せた。
「ジャン、頼りにしてるからね」
「ああ、頼むよ」
 友凛愛と正義が言うと、ジャンは満足そうに満面の笑みを見せる。
 二人がジャンの扱い方をよく分かっているだけにすぎないことは、本人は知らない方が幸せというものだ……。

「……っと、いたぞ。旧穢神だ」
 不意に正義が真面目な声を発して、友凛愛とジャンが真剣な瞳を向ける。

 そこには、2種類の旧穢神が居た。
 ひとつは、泡状の頭部を持ち全長150センチほどの体長を持つ人間型。
 もうひとつは、魚のような姿に骨ばった翼を持ち、シーラカンス目のような大きな下あごを持つ飛行型。

アワビト サシガシラ

 前者は「泡人(アワビト)」と呼ばれる種だ。
 全長のうち約半分は、頭部から生えている泡状の集合体が占めている。
 首から下は7歳児ぐらいを思わせる人間らしい体つきで、泡とのギャップが生理的嫌悪を生み出していた。
 動きが遅いためあしらうのは簡単だが、衝撃を受けるとその泡が爆発を起こすため、やっかいな存在だった。

 後者は「狭シ頭 (サシガシラ)」。
 気まぐれに空中を飛び回り、その強靭な尾びれと強い顎で目標を攻撃する。
 全長60センチほどと小型でそれほど脅威ではないのだが、個体数が非常に多く数の暴力でこちらを煩わせてくれる旧穢神だ。

「ジャン!」
 旧穢神を見据えながら、振り向きもせず正義は言う。友凛愛は心配そうな顔でジャンを見つめていた。
「OK! 任せとけー!」
 ジャンが、自慢の脚力で地面を蹴って、勢いよく飛び出した。
「俺たちは”キズナ”を繋いでフォローする! それまで頼む!」
 元気よく叫ぶジャンの背中に正義が叫ぶ。
 ジャンは肩から下げたスポーツバッグに手をかけた。そこからネットで下げられているサッカーボール。
 これが彼の「武器」だった。

「さて、ゴールはどこだ?」
 楽しそうに言いながら、ジャンは膝でボールを高く蹴り上げて背中の後ろに落としてやる。それを踵で蹴り返し、頭上を越して前に送って、胸で軽くトラップ。リフティングの流れは非常にスムーズで、完成された美学さえ感じさせている。

「いっちょ、やってみっか!」
 言いながらジャンは内腿で軽くボールを上に弾いてから――右足を、ぐん、と後ろに強く引く。

「いっけーーーー!!」

 落ちてきたボールに合わせて、凄まじいスピードで右足を振り抜く。
 ボールはその威力を受けてへこみ、一瞬足先に吸い付いたかと思うと、その勢いを乗せて旧穢神の群れへと蹴り込まれた。

 ボールは赤いオーラを帯びながら、まるで弾丸のように一直線に、手前のサシガシラを直撃する。
 正面から強い運動エネルギーを受けたそれは、一瞬不自然なまでに歪んでから赤いオーラに覆われたかと思うと、紫がかった黒い湯気を放ちながら大気に溶け込むように消滅した。
 だが、それでもボールの勢いは止まらない。サシガシラから跳ね返ったあと、さらに隣のサシガシラを直撃する。そしてさらに次のサシガシラを狙い、まるで意思があるかのように旧穢神を打ち倒していった。

「お、前より調子よくなったかも。うまく調整してくれてるう」

ジャンが言うのは、伊集院財閥のコーポレートマークが描かれたボールのことだ。
ルキオラ・クルキアタは、グロウリーたちがその力をより発揮するための武器の開発も行っている。
とはいえ旧穢神には物理兵器が有効ではないため、その攻撃力ではなく超能力をより強く引き出すための「増幅器」のことを武器と呼称していた。

「よし、ジャンが足止めしている間に……」
 正義は、背中から伊集院財閥のマークが入った刀袋を降ろす。いつもの手順で巻いてある紐を解き、中から1本の日本刀を取り出した。
 長さ80センチほどの、無銘の打刀。父が買い与えてくれたもので、正義が取り扱いやすい長さだ。
 銃刀法の関係で刃を落とした模造刀ではあったが、増幅器なので物理的な攻撃力は関係がない。

「”キズナ”を――!」
 正義が刀を構えて、呼吸を徐々に深いものへと変えてゆく。
 ポゥ、と緑色の燐光が正義の体から生まれ始めると、緩やかな弧を描いてゆっくりとジャンへと向かっていく。
 燐光はまるで彼を愛すべき対象であるかのように包み込み、周囲を漂い始めた。
「ナイス!」
 それにジャンが気付いて、ボールを蹴り込みつつ言う。
 ボールは先程より赤いオーラが大きくなっており、ボールの勢いはさらに鋭く、旧穢神への攻撃力を増していた。

 彼らが”キズナ”と呼ぶもの――それはつまり仲間を信じる気持ち・応援したい気持ち・友情などを可視化されたものだ。
 キズナを仲間で繋ぐことは、つまり「超能力の同調(リンク)」を意味している。
 グロウリーたちは増幅器の力を借り、キズナを纏うことで自らを強化したり、仲間とキズナを繋ぐことでお互いの超能力をより強化することができた。

「キリがないな……」
 正義はざっと周囲を見渡してから、呟くように言った。
 ジャンが旧穢神への攻撃を続けて、かなりの数を消滅させたはずだ。だが、未だに視界を覆う旧穢神は数多で、遠くに見える炎を隠している。
「正義、ジャンを覚醒させようよ!」
「ああ、俺もいまそう考えていた」
 友凛愛が焦燥感を匂わせながら言う言葉に、正義は頷きながら返す。

 “覚醒”――。
 仲間とのキズナ同調――「キズナリンク」が一定量を超えると、グロウリーたちは一時的に強力な力を手に入れることができる。短時間の超能力ブーストをさせることができるのだ。
 炎属性のジャンは熱意や激情などを源としており、キズナリンクを多数繋ぐことで覚醒する。

「ジャン! 私からもっ!」
 友凛愛が叫んで、両手を重力にまかせて降ろすと、ゆっくりと瞳を閉じる。そしてすぐに、彼女の周囲を緑色の燐光が漂い始めた。
「ジャン、受け取れ!」
「受け取って!」
 正義と友凛愛が同時に叫ぶ。
 直後、二人の周囲を漂う燐光は一瞬浮流を止めてから、しゅうん、とジャンに向かって飛んでいく。
 まるでジャンに吸い込まれたかと思ったその瞬間――。

「よっしゃ! ……き、来たあ!!」

 一瞬、彼の全身が大きな光に包まれた。すぐに光が晴れ、赤い炎のようなオーラを纏ったジャンが堂々と立っていた。
 両手を胸の前まで持ち上げ、両の拳を握っては開き、何かを確認するように見つめてから、ゆっくりと息を吐きつつ瞳を閉じる。
 それからまたゆっくりと、両目を開いた。その視線は力強く、意志の強さを含んでいる、信念のこもった瞳だった。

「……うちの親父がいつも言ってるぜ。”Chi non risica non rosica.”……直訳すりゃ”虎穴に入らずんば虎児を得ず”って意味だけど」
 ジャンはボールを軽く蹴り出して、ドリブルをしながら旧穢神たちへと向けて駆け出す。
「俺流に解釈すりゃ、”攻め上がらなきゃゴールにシュートを蹴り込めない”ってとこ!」
 思わず浮かぶ笑顔は、強敵と対峙した時の高揚感。それがジャンを笑わせていた。

「そうら!」
 ドリブルからボールを跳ね上げ、正面のアワビトに蹴り込む。どぱん、と泡の破裂と衝撃音が鳴り響き、ボールはまるで宿主に戻るかのように、ジャンへと跳ね返る。
 それを胸で軽くトラップしてから、隣のサシガシラ向けてのシュート。旧穢神だったものが紫の煙となるのを待たずに、ボールはまたジャンの元へ。
 まるで、サッカーの試合で相手ゴールを目指す怒涛の攻め。力強い突撃。
「おいおい、俺とやりあえる強敵(ライバル)はいねぇのか!?」
 昂揚を隠そうとせずにジャンは言う。
 まるでその言葉が合図かのように、不意にごうっ、と風が吹き抜けていった。

「ジャン、おでましだ」
「いいタイミングだ。”エース”級か?」

 旧穢神はその危険レベルによってランク付けされている。
 比較的弱くグロウリー1人でも殲滅が容易なものが、穢レベル1「コモン」級。
 より凶悪な個体でグロウリー数人がかりで討伐できるものが、穢レベル2「エース」級。
 その攻撃は自然災害にも匹敵すると言われている、穢レベル3「ジョーカー」級。
 その3種類がルキオラ・クルキアタの分析により分類されていた。

「いいね!」
 ジャンが、眼前に発生した高さ3メートルほどの竜巻を見つめながら、楽しそうに呟いた。
 やがて風はおさまり、その中心から巨大な旧穢神が姿を表す。

サシガシラ

 穢レベル2、エース級の旧穢神「畦放(アハナチ)」。
 屈強な青年男性を思わせる上半身に、束ねた触手のような緑色の顔面。流れるような白髪が頭部を包み、牙の生えた下顎は爬虫綱有鱗目を連想させる。
 両腕の肘から先と、腰から下は緑がかった竜巻を纏っており、凄まじい突風による攻撃と移動を得意としていることは容易に想像できる外見をしていた。
 “畦放”とは、「田を破壊し水田灌漑を行うこと」であり、かつてスサノオノミコトが高天原で犯した天津罪のひとつであると言われている。
 その名を冠しているということは、それほど凶悪な被害をもたらす旧穢神であることを示していた。

「俺はいま、すっげー楽しい気分なんだ! 遊ぼうぜ!」
 ジャンが叫びながらアハナチに向けて駆け出し、挨拶替わりにボールを蹴り込む。
 アハナチは両手を前に突き出すと、腕の竜巻を大きく回転させる。ボールはそれに吸い込まれたかと思うと、竜巻の中央で動かなくなる。
 いや、止まったのではない。あまりに高速な突風に包み込まれ、微動だにしなくなっているのだ。

「ジャン!」
 咄嗟に友凛愛は声を出していた。これから何かの攻撃がジャンを襲うことは、容易に想像がついたから。
 アハナチが捉えたボールが急速に回転し始めたかと思うと――そのまま一直線にジャンに向けて発射された。
 まるで弾丸のような勢いで、ジャンのシュートと同じか、それ以上の勢いで。
「うおっ!?」
 ジャンの胸元に狙いを定めて、その動きを視線でも追いかけられないほどの速度でボールが襲う。
 どっ、と肉と骨を叩く嫌な音が響くと同時に、ジャンとアハナチを包み込むように土埃が舞い上がる。

「大丈夫か!?」
 思わず正義も叫んでいた。
 あの速度のボールをまともに受けたらどうなるか、考えるだけでもぞっとしない。
 起こって欲しくない結果を連想して動けない正義と友凛愛をよそに、土埃の中から、ぽおん、と上空にボールが跳ね上がった。

 ……あのボールをまともに食らったらどうなる?
 旧穢神を一撃で討伐できるほどのジャンのシュートより、さらに強い弾丸。
 もし、その攻撃をジャンがまともに受けてしまっていたら……!

「ナイスパス!」
 
 正義と友凛愛ははっとなり、高く飛んだボールを思わず見上げていた。
 空高く飛ぶボールと、それに覆いかぶさる一つの影。ジャンだ。

「いいパスくれてありがとな! あれぐらいトラッピングできて当たり前!」
 ジャンは宙高く飛び上がり、満面の笑みを浮かべながら、空中で体を捻って右足を振り上げた。

「お礼っちゃなんだが、ゲルマン系英雄のシュートをプレゼントするぜ――”Sigmund shoot(シグムンド・シュート)”!!」

 ジャンの振り上げた右足が、ぼっ、と炎のオーラに包まれる。
 振り下ろされた足がボールを叩いた瞬間、空気が爆発したかのような衝撃が放たれた。
 彼を中心に激しい熱風が巻き起こり、あまりの風圧に正義と友凛愛は思わず顔を腕で覆い隠す。
 それとほぼ同時に、ごしゃあ、と、例えるなら家屋が倒壊したような、柔らかいものと固いものが一気に一瞬に潰れたのを思わせる、なんとも形容しがたい破壊音が響いた。

「……!」
 土埃が晴れて、その中から見えるものに、正義は絶句した。

 ボールが叩き込まれたアハナチ――いや、アハナチ「だったもの」が立ち尽くしていた。
 両手を前に突き出したアハナチ。ボールを受け止めようとしたのだろう、ゴールキーパーとしては正解だ。
 だが、シュートの威力が強すぎたようだ。アハナチの両腕は肘から破壊され、纏っていた竜巻は四散していた。

 そして、その喉元には赤いオーラに包まれたジャンのボールが、ぎゅるぎゅると高速回転をしながら刺さっている。
 ボールのように柔らかいものが「刺さる」というのは誇張ではない。ボールはアハナチの体に強くめり込み、それでもその勢いを止めない。
 放たれる赤い衝撃波がアハナチの体を燃やすかのように包み込み、その体躯をひび割れさせていた。

「……ガ」
 アハナチは、言語ではない雑音を口から吐き出すと、それが合図のように末端から紫の煙となって四散してゆく。
「……レ……」
 粉塵が広がるように煙が周囲に四散したかと思うと――アハナチは消滅した。

「ジャン! 大丈夫!?」
 着地したジャンに友凛愛が駆け寄った。眉を寄せて、心配な感情を露わにしている。
「なーに、これぐらい大丈夫だって」
 ジャンはそれを気にせず、上着をはたいて土埃を叩き落としながら軽く答えた。
「ったく、サッカー勝負で俺が負けるはずないじゃん」
「それは信じてるよ。けど、心配なものは心配なのっ!」
 友凛愛が身を乗り出して力説するのに、ジャンは露骨に面倒臭そうな顔をして、
「あー、はいはい」
 と、じと目で答えた。
「ちょっとー!」
「……待て、遊んでる場合じゃない」
 正義が周囲を見回しながら、神妙そうな声で割り込んだ。
 ふと気付けば、周囲の炎は先程より勢いを増し、周囲を完全に取り囲んでいる。

「もうこれ以上は限界だ。俺たちも脱出できなくなる」
「遊んでるわけじゃないもん!」
「サッカーは遊びだけど楽しいぜ?」
 それぞれ言いたいことを飛び交わせながら、3人は周囲を見回した。
 このままでは、こちらが救出される側になってしまうことぐらい想像がつく。

「――お、本部から通信だ……はい、正義です。……はい、エース級討伐までは。……あ、はい。向かいます」
 正義が端末をしまいながら、続けた。
「明日華から連絡で、遊園地にも旧穢神が出現したらしい。エース級の討伐を完了させたのを知って連絡してきたみたいだ。こっちは別部隊で救出と鎮火を続行するから、俺たちはすぐに遊園地に来て欲しいそうだ」
「そっか。じゃあこっちはまかせて、移動するか」
 正義の声にジャンが軽く答えて、3人は走り出した。

「……あれ?」
 駆け出してすぐ、友凛愛がふと振り返る。
 さきほどアハナチが居た付近に、ふと何かが見えた気がした。ほんの一瞬だけど、光の反射のようなものが、視界の端に映ったのだ。
「なんだろ……」
 思わず踵を返して、膝を曲げながら地面を覗き込む。そこに見つけたのは、ほんの3ミリほどの小さな紫がかった結晶。
 友凛愛はそれをつまみ上げて眼前にもってくる。角度を変えながら見つめてみるが、正確ではない菱形という形状で、内部は幾層にも重ねられた層が幾何学的な模様にも見える。分類で言うと、エレスチャル水晶、または骸骨水晶と呼ばれる形状のように見えた。
「おい、友凛愛! おいてくぞ!」
「あ、ごめん! 今行く!」
 正義の声に、友凛愛は慌てて結晶をズボンのポケットに突っ込んでから、走り出した。

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